死の教徒、「スケンドル」 SF小説 : 著 岩倉義人

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5 クーネミュール学者ヨーカラインダー・ヘッザの日記
  光暦780年12月7日

 私は今日、届けをカリフのところへ持っていった。もちろんそれは、サレクスの死刑延長を取り消すためのものだ。もう、サレクスの命をこれ以上引き伸ばす必要はなくなった。彼女はそれでも生き延びることが出来るだろう。私の中で。
 K・S・Tで行われた手術は予想よりも極めて簡単なものだった。
「人工臓器というものは全く自立的に動いているから、体に負担をかけることはない。」そう、K・S・Tで説明を受けたが、それはまやかしでだろう。
 私の体の中に埋め込まれた半透明のカプセル、人工の子宮は私の何か重要なものを養分として吸い取り続けているような気がする。中身がまだ空なのにそう感じるのだ。
 私はもう一度最後に、サレクスに会いに行くつもりだ。彼女は私の中に子宮が準備されたのを知ってどんな顔をするだろうか。もし、彼女が拒否したらどうなるだろう。私にはそうならないのを祈るしかない。しかし、彼女の態度がどうであれ、結果は同じかもしれないが。
多分彼女なら分かってくれるはずだ。

*このあと、10ページほど空白のページが続く。最後に書き込まれたところには日付がない。

 まさか、こんな結果になるとは。サレクスは腹の中に隠された秘密の子供を私に渡すのを拒否した。そして、また自殺するのも拒んだのだった。
 カリフはサレクスを殺し、スケンドルを私に託した。
 これでもう、クーネミュール学はお終いだ。
 カリフは失望したのだろうか?
 いいや、きっと喜んでいるのに違いない。私だって本当はクーネミュール学を自分の手で破滅させることになるなんて思ってもみなかった。
 しかし、これが正しい姿だ。
 私の今のこの、呪われた姿。私の中にはスケンドルがいる。
 私はこれから、スケンドルの聖所に向かわなければならない。
 本当の意味でのスケンドル教徒にならなければならない。
 サレクスは私のことを許してくれるのだろうか。

 旅立つにあたって私はこの日記を破棄することを考えた。しかし、この日記が私以外の人に必ず必要とされる日がくるような気がする。
 多分光量子の教徒たちはなぜ、カリフが神聖な光量子の炉の中に、この上ない汚濁である、スケンドル教徒を投げ込み続けたのか知らねばならない。

*最後の記述はそれまでは日記のマス目にしたがって丁寧に書かれていたのとは違って、斜めに走り書きされている。
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