死の教徒、「スケンドル」 SF小説 : 著 岩倉義人

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2 クーネミュール学者ヨーカラインダー・ヘッザの日記
  光暦780年9月8日

 今日、捕らえれた、スケンドル教徒と初めて接見をした。
 光量子の教徒のカリフの話では、彼女を解剖した後にそれを調べて報告してほしいということだった。だが、殺す前により彼らの事を知ることができるなら、接見しても良いとのことだった。なお、彼女たちは総じて話すことが出来ないので、筆談なら出来るかもしれないと思って私は紙とペンを持っていった。
 しかし、それも不用だったようだ。彼女は字が書けないようだった。
 まず、印象から書いてしまうと、彼女はとても美しかった。一般に言われているとおりに、恐ろしい外見をしているのにかかわらずだ。

 私が接見に当てられた狭い、薄暗い部屋の中に入っていくと、彼女はフードにすっぽり顔を隠して、床に座り、壁にもたれかかっていた。彼女が着ている薄汚いマントを通してさえ、彼女が華奢なのが分かった。彼女のひざに置かれた手を見ていると、彼女はスケンドル教徒なのではなく、単なる普通の人間なのだと思えてきた。しかし、その手首にはカリフの光の衣から抜き取って編まれた、太い紐が絡まっていた。本当にその包まれた布の中身は骸骨なのだろうか。私はその静かに光る紐を見つめていた。
その紐がなかったら、すでに私の命は無くなっていただろう。一時的にせよ、それが、彼女の力を吸い取っているらしかった。

 私はどのように声をかけたらよいのか分からなかったので、番兵の方を見た。
 番兵はただ静かに「クレファ・ソイド、立て。」と言った。
 クレファ・ソイド。彼女はそう呼ばれていた。私はその名前を使うべきか迷った。彼女たちが私たちに本当の名前を明かすはずがないので、便宜的に、こちらのほうで名前をつけているのだ。だから、スケンドル教徒は光量子の教徒から見ると、全て、何々・ソイドという訳だった。
 彼女はしばらくしてやっと立ち上がると、椅子に座った。
 そして、自分からフードを取り払ったのだ。私にその恐ろしい姿を、ただ、見せつけるために。やはり、彼女の頭は骸骨だけになっていた。それは、青白く光っていてとても美しかった。その骨は死んでいるのではない、彼女たちの神にささげられているのだ。私が以前、生物学の教室で見た人間の普通の、薄汚い死んだ頭骨とは全く違っているのは明らかだった。

 *以上で一日目の日記は終わっている。彼は思ったようにクレファ・ソイドから、情報を引き出すことが出来なかったようだ。だが、彼は逆にこのときからすでに魅せられてしまったのかもしれない。クーネミュール学者が、研究対象に魅せられるのはごく一般的とも言えることだったが、多分彼の愛情は観察者という限度を超えつつあるのだろう。次に興味深い記述は彼の日記の一週間後に表れる。
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