エテルキフ SF小説 : 著 岩倉義人

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26章

 ロジアが神官警察院の捜査室に着くと思った通り、レンはいなかった。
 クリーム色の机を覆い隠すようにして雑多なメモや書類が撤かれていて、その隅の方に連絡係にされたのであろう、一人の神官警察官が青白い顔をしてまどろんでいた。それで突然帰ってきたロジアを見て、驚いて目を開いた。まるで亡霊でも見つけたようだった。

「ああ、ロジアさん。お疲れ様です。何か調査ですか?」
「まあね、レンは何時、戻ってくるんだい?」
 彼は自分の目の前に置かれた電話を見詰めた。
「さっき連絡があって11時に戻るそうです。」
「そうか、ありがとう。」
 ロジアは壁際の自分の机に向かって、床に落ちた紙屑を避けて歩きながら言った。
「そう言えば、そっちの様子はどうなんだ?」
「ゴトルヒンはまるで霧の中の幻です。どんなに捜査してもゴトルヒンと名乗る男は見つかりやしません。今は不法移民の居住地区を中心に調べているんですが。奴は本当に普通に生きて暮らしているのか不安になってきましたよ。」
 しかし、ロジアはその言葉が聞こえていないのか、自分の机を通り越してしまい、ソファに倒れ込むようにして寝転んでしまった。
「そうか、レンが帰ってきたら起こしてくれ。」
 ロジアは意識を無くしたように眠った。

 夜半過ぎに戻ったレンはロジアの話を聞き、自分が99位神官からされた命令の説明をしなければならなかった。

「神官長はツェリトの被膜がこれ以上強くなることを非常に嫌がっているようだ。自分の神性意識が発露していく時に、耐えられないようなノイズが混じるとか言ってたな。」
「でも単純な聞き込みではらちが開かないんだろう? そういえば、前に私がジムと捕ってきた、ツェリトの部屋にあった精神妨害矢の方は何か分かったのかい。」
「駄目だ。精神妨害矢を出す装置らしいという以外はなにも分かっていない。そう言うのは、ジムの馬鹿カで壊れてしまったのかもう矢を打ち出さなくなってしまったからなんだが。」

 ロジアはソファの上で、座り直しながら言った。
「私の実験の夢の中で見た赤い羽虫が、サカルナサスだと分かれば問題は無いんだろう? 神官長には耳栓でもしておいて貰えば良いじゃないか。実験の最中はさ。」
「確かにそうだな、とりあえず明日にでも出来るだけ早く神官長に直接会いに行ってくるよ。」

 どうしてスファルトはトリノフェタの時はどのようにしてでも封印紋を解けと言っていたのに、最近になって神経質さを増す必要があるのだろうか。

 レンは一日中歩き回って、朦朧とした頭で考えていた。核熱鉄器の中の人工的な偽物の神は、何を怖がっているのだろうか。大体その恐怖そのものが、ジス国内の気違い染みた犯罪を増やしていることに、奴は気付いていないに違いない。

 次の日の夜、自宅に久し振りに帰っていたロジアに電話があった。
 レンからだった。路上で掛けているのだろう、時々、自動車が地面を擦る、無感情な悲鳴がかすかに聞こえた。その音に混じって彼の声がとぎれとぎれに聞こえた。99位神官が実験を頼むと言っていた、とレンが言うのを聞いた。

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