エテルキフ SF小説 : 著 岩倉義人

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8章

「そうか、君のあり方というのは、君らの力によって、外の世界から分かれる、強力な空間膜ができるんだと思っていたけど、そうじゃないんだね。
 本当は特殊な君たちを、物のくせに、心を持った君たちを遮断してしまうために、他の平凡な状態の物質たちが排除膜を作って君たちを追い立てているんだね。」
 ロジアの視覚中に疑似的に視覚化されている、神性神経化されたガスは緑、黄色、赤の斑点の点滅する模様になっていた。それは、見ている人をこの上なく、不安にさせるものだった。
「おいでよ。こっちに。」
 しかし、同一化を果たしたのであろう、ロジアの感覚は、彼の予想外のものだった。正常な外部の世界への感覚を取り戻していたのだ。でも、それは、彼のみに限られた範囲での事であるのは、言うまでもない事実でもあった。
「僕には外側の全てが、ちゃんと見える。見えるんだ。レンだって、キファだって、他の人達だって。だけど、あなたはだれ? そこで永遠の空間の穴になろうと切望している人は。」

 ロジアの見ている先には、彼以外には、あることは絶対実感することのない、システム化させた、意識上のかたまりが見えた。しかし、幼児化された、言語脳しか持ち得ない、今の彼には、それは綿菓子とも見て取れたのだった。

「君はそうやって、いつまでもうずくまっているしかないんだ。でも、君が心の中に抱き続けようとしているのは、もう死んじゃった人なんだ。だから、僕がもう心配しなくても良いように、君の肉の中に埋め込まれた、あんずの種を僕が痛くないようにつかみ出してあげるよ。」
 そういってロジアは、電気的で存在を持たない、ある人間により縛り付けられた、雲状の空間の間隙に手を延ばした。ロジアの視覚にはその手は、小さい女の子の手をしていた。3つぐらいの。
 でも、そのあんずの種を取り出した女の子は驚いて、きゃっと、びっくりして種を地面に落とした。その種に書かれているはずの名前が考えていたのとまるきり違ったからだった。女の子は最初は半分、泣きそうだったがあきらめて、こうつぶやいた。
「セミ・トリノフェタじゃなくて、グリセル・ゴトルヒンって書いてある。
 そいつが、トリノフェタさんを殺しちゃったんだ。僕がそいつを捕まえなくちゃいけないんだ。」
 さっきから、こっちをじっとみている、灰色のスーツを着た、おじさんがいる。この種はあの人になんて、あげたくなんかないや。

 しかし、スーツの男はそれ以上、近付くことはなかった。
 一言も話すはずもなかった。彼は恐怖に打ち震えていたからだ。
 彼は遠くから、目をこらして、その男の名前が書いてある種を確認すると、どこかに歩いて行った。おぼつかない足取りをしていた。立っていた所の地面には血が数滴落ちて、浸透していった。もちろんロジア以外の目には見えない、どうでもいいことだった。ロジアとスーツの男以外のもう一人を除いては。グリセルと呼ばれるその男は銀の鍵の開けられる過程を、絶対感覚を持った99位神官からも見付からない場所から耳を澄まして観察していた。
 そんなことも彼には容易ともいえる事だったのであろう。
 それとも、その彼さえも、ロジアの疑似的な姿である、女の子の姿に恐れをなしたのであろうか。身をすくめていた。
 それは、その女の子が、トリノフェタの死体の額の髪を、そっと、一度だけやさしく、なでつけたからだった。

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