エテルキフ SF小説 : 著 岩倉義人

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7章

 ロジアがガスの神性神経の吸入を始めてから、5時間は経過していた。ガスの持つ極小ドープ空間の防電磁性に阻害されて、迅速な計測は不可能になりつつあった。ほとんど休みの取れない、神官警察の研究員たちは、体力の限界を感じているのは間違いなかった。ロジアはどうなのだろうか。何を感じているのか。それとも感じることさえ出来ないのだろうか。

 レン・スコットはテントの中で、束の間の仮眠を取っている、若い研究員の姿を虚ろに眺めた。ほおに銀色のほこりを薄くかぶっている。自分で付けた、それを拭きとった指の跡は消えかかっていた。
 しかし、また、トランシーバーがざらついて、聞き取りにくい声でつぶやいた。「レン。キファだが、ちょっと来てくれ。ロジアの様子が変だ。神性神経との同調が終わりつつあるのだと思うのだが。」
「わかった。今すぐ行くよ。」
 この実験には終わりがあるのか? まったく疑わしくなってきたな。
 駆け寄っていくと、マスク越しにキファの頬骨の辺りが計器の出すラジオエントログラファーの光にうす緑に染まっていた。

 計測機の巨大な影にうずくまって、手には記録票を持ち、ペンを走らせている、キファの瞳がブラウン管に紫に点滅していて、それがキファの隠れている精神の露出を思い起こさせた。それはロジアの感じに、似ていた。
「ほら。これを見てくれ。意識明晰度のグラフが3分前にはマイナスだったのに、あとの10秒間だけで、普通の人間の覚醒状態の15倍を軽く越えているんだ。聴覚の状態も正常のはずだ。しかし、それなのに、こちらの呼び掛けには全然、答えようとはしてくれない。レンからもマイクを使って、呼び掛けてくれないか。」
 ロジアの聴神経にはレンの悲痛に満ちた、「ロジア。大丈夫か。答えてくれ、ロジア。」
という声が、神経の許容量ぎりぎりで、爆音のように響いていた。
 しかし、ロジアの意識は外の世界の全てから、離れたところにいた。
 そこはあたたかさというものに、満ちているとは思えないだろうか。
 ロジアにとっては。レンは呼ぶのを止めて、マイクロフォンのスイッチを切った。そのバツンという響きは、レンから、彼に送る、最後の人間性の姿を借りた、電気信号なのだろうか。

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