エテルキフ SF小説 : 著 岩倉義人

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6章

「実験は続行する。神経吸入ポンプの圧力は2・5をそのまま維持しろ。それから、体温が下がり気味だな。保護スーツのヒーターを3度上げておけ。それで良い。G25番の意識感覚を調べろ・・・」
 キファの声が虚ろなロジアの意識に少量、反響していた。
「あいつはいい奴だ。私を、この私なんて守ろうとしている。
 しかし、これはスモモの香りなんてもんじゃないな。俺の、俺自身の血と、トリノフェタのゴムみたいな血液、レンの精液までぶち込んで混ぜ合わせたみたいな、どっかのトロピカルフルーツなみだな。南国なんて二度と行きたくなくなったな。
 キファに対してたった今、「やさしさ」と呼ばれているものを、感じたなんて俺もどうかしているな。
「キファ。耳の感覚が異常だ。ちゃんとモニターしているから分かっているんだろ。さっきから、猫がやってるみたいな絶叫で、おかしくなりそうだ。」
「わかった。聴覚感受レベルを0・1から0・05に下げろ。」

 キファは仲間の研究員と、目を合わせた。0・1でも普通の人間の聴覚限界の10分の1ぐらいしかなかったからだ。幻聴のコントロールは精神段階の調節を遮断する他はない。今となっては自分でなんとかしてもらうしかないな。

 ロジアは固定されている、頭を振ろうとしたので、ベルトがギリギリ音を立てていた。
「違うな。これは猫が交尾している時の叫び声の記憶などではない。私の脳神経の中に、神性神経が侵入してきたんだ。レイプされている、私自身の叫び声なんだ。だけど、これは俺の心の雌型のはずだから、やさしさ、暖かさに対する、幻覚も引き起こすはずだが。
 そうじゃない。これが私が世界に感じている、やさしさへの感覚なんだ。
 だから、苦痛に満ちているとでもいうのか。
 明らかな間違いだ。そんなものは、私には必要ではない。

 偽物への接触。ロジアは暖かい、桃色をしたチューブワームの運動を、口から肺への気管の中で感じていた。ロジア・エテルキフは無感情の気体を進んで吸い込んだ。いや、ロジアの方がもともとは無感情であることは間違いなかった。神性神経化とは物質に必要なんて無いはずの、感情と呼ばれているものの真似ごとをさせている、物質を完全なものから引きずり下ろしている、人間的な作用なんだ。だからこそ、空間歪曲を用いて、閉じ籠ろうとしているのだろう。
 そうか、それが核熱鉄器内の神性意識がどうして何者にも、その莫大な力を作用させようとしないかという訳か。
 理想的な生命の心理作用は存在を自ら、否定するということか。
 ロジアは自分の中にある、虚ろな完壁性、神経化された氷硫酸のガスの桃色の雲を見ていた。
「君らは何を、怖がっているの?」

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