エテルキフ SF小説 : 著 岩倉義人

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2章

 ジス国・核熱鉄器には98の意識が融合されていた。
 それは神性意識とよばれていたが、そのうち人間が理解しうる論理性を持つものは、91〜98位までだった。その神性意識と人間との取り次ぎは、常に99位神官のみが取り行ってきた。99位神官は完全に世襲である。
 処女懐胎・単為生殖系でかつてはあったらしいとされる。

 スファルト・ラム・フォトは灰色のスーツを着ていた。それは彼が執務室にしている、巨大な古代寺院には不釣合とも思えた。120本立つ柱は全て、重金属製で、黒い防電磁被膜で覆われていた。そこは、13年前に彼が99位神官に就任するまでは、亡命者センターとは名ばかりの、世の中で最もひどい悪臭がする場所として呪われていて、数年前に放置されていた。彼がそこを無料同然で供出させ、執務室としたのだった。
 それまでの神官の御座所といえば核熱鉄器倉庫の前にある、神殿と決まっていたのだが、そこの怪物じみた装飾と取り巻きをスファルトは嫌ったのであろうとうわさされていた。
 しかし、ラム・フォトは実際のところ、そんなことはどうでも良く、建物全体を覆う、強電磁防護膜になによりも心地好さを見出だしたからであった。
 そうでないと、彼が自分が神性意識に達しようとしているときに、周りの他の物質がオーバードープしてしまい、空間がねじまがってしまうのだった。
「俺の安らげるところは、こんな、糞溜め、もとの死刑執行所とはな。しかし、この気違いじみた、強防電磁膜の中で千年前の坊主どもはどんな悪事にひたっていたというのか。
あながち、俺と同じで毎日、神と呼ばれているもののレイプにいそしんでいたのだろうか。」
 スファルトの髪が赤色灯に、濡れたように光っていた。彼はいつものように一人で、一日中暗闇である、巨大な柱に挟まれた通路を横切って、執務室兼居間に向かっていた。黒色塗料が光を吸着するからだった。ほとんど、光というものを感じないのは。
 靴音は数十メートル上の天井に近付くにつれて、電子的な鐘の音に、似せられていた。
「それとも、ここのみが清潔なところか。神性意識とは唯一の不潔な物質ではないだろうか? この俺に捧げ上げられるのを待つばかりの。本当は俺のみが不潔なんだろうか。」
 内心、どうでも良いことと知りながら、スファルトはベッドと机と書類のみしかない執務室へのドアを潜り抜け、91位意識への、今日の36度目の接触を試みた。神殿内部の端末に送られてきている、人間の25万の検索事項について個々に考える必要などなかった。
 しかし、それもラム・フォトが神性意識に達しているときに、人間的な論理性などというものを、保つことが可能ならの話だが。
 そのはざまでラム・フォトはある殺人事件について考えた。彼なりの興味を覚えたのだ。
ほんの一瞬だけだったが。
 だが、彼の感情は神性神経に切断されていった。偽りの物質性の勝利、それとも死と呼ばれているものに近いとさえいえるものだった。

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