アーハ・ハーガラの魔法野菜の庭園 ファンタジー小説 : 著 岩倉義人

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5 土の中のクイル・ソーダヌス

「そんなこんなでやっとこさ、あたしは人魚を手に入れた。人魚は今でも土の中で私のために歌ってる。最初、私のお師匠さんに人魚を畑に埋めると良いという話を聞いたとき、私は、人魚の肉を肥しにするのかと思った。
でもほんとはそうでなくて、土の中でも生きれるようにしてやれば、その中で歌を歌うらしい、それがほんとの肥やしになるんだと。とんでもない魔法の野菜が出来るんだ。
あんたたちみたいな。それを使えば、強い魔法の薬が出来る、人を生かそうが殺そうが思いのままだ。
それを私はためしたかったんだ。
それに、その時あたしのことを付けねらっている、とんまな奴もいたしな。

ええ?なんで、そんな小生意気な人魚があたしの言うことを聞いたかって?
そりゃあれだ。あたしの力だけで押さえつけようたってそりゃ無理な話だ。
ずっとあたしがそいつを押さえつけようとしたって、一瞬だけなら大丈夫かもしれんが、何時まででもそいつのことを考えているのも疲れ果てちまう。
 だが世の中便利で、いろんな魔法の道具がある。ソーダヌスに使ったのは魔法の鎖さ。
 そいつを捕まえたときに付けてやってから何でも言うことを聞くようになったのさ。
 だからあいつは毎晩、畑の中で歌を歌ってるだろう。
 きれいな声で。だけど、最近はあんまりよく聞こえなくなってきた。それはあたしの耳が遠くなったせいだろう。それでも、あんたたち野菜の色つやを見てれば、ソーダヌスがちゃんと歌ってるかどうかなんてちゃんと分かるさ。」

ハーガラ婆さんはまた、でぶっちょのトマトをなでようと、そっと手を伸ばした。
だが、ふと気がついて振り向いた。部屋の隅に見慣れない影があった。
 彼女が見定めようと目をしばたいていると、影は話し始めた。
「おい、忘れたのか。夜になったらくると言っただろう。
日影の魔法使いだ。なかなか面白い話を聞かせて貰ったぞ。礼を言っておこう。
だが、今度は俺の話を聞く番だ。
まずはこれを見てもらおう。」
 彼はマントのポケットから、小さな毛の塊を取り出した。よく見るとそれはふわふわとした毛並みをした真っ黒なヤマネのようだった。それは冬眠しているのか身じろぎもしなかった。ハーガラはなでようとしてそっと手を伸ばそうとすると、男はすぐにそれをポケットの中に戻した。
「言っておくがこれはただの眠っているネズミではない。
言うなれば、悪魔か怪物と言ったところだ。
本当のこいつの姿はまったくこの姿とは異なっている。
本当はもっと巨大で邪悪だ。
今こいつは仮死状態にある。
こいつを殺すことは誰にも出来ない。ガマスル・ファグにある、最も強力な魔法炉の中でもこいつを焼くことは出来ないんだ。
厄介なことにこいつは一度仮死状態にされても、そのうちまた目を覚ます。そうしたらまた人間を食らい始める。今まで少なくとも千人以上はこいつに食われただろう。
私はある人に頼まれてこの悪魔の始末をするためにここに来た。
出来るだけ早く済ませるつもりだ。
うまく済めばお前にも報酬が出るはずだ。つまりそれはソーダヌスの魔法力が強まるといったことだ。また金が欲しかったらそれもやる。」
ハーガラ婆さんがあまりのことに返事もせずに驚いてじっとしていると、魔法使いは話を続けた。
「悪いが余り考えている時間はないぞ。この悪魔が目を覚ましたら、どうしようもなくなる。つまり私の手には負えなくなる。実はこの悪魔を眠らせたのは私ではないんだ。
私には覚醒している状態のこいつの力を押さえられるほどの力はない。」

次の日の早朝から魔法使いの作戦が実行された。
しかし、彼の計画通りに事が順調に運ぶかどうかは難しい気もした。
ハーガラ婆さんは恐ろしいマーメイドの秘密を仕方なしにぶつぶつと語り始めた。
それは彼がガマスル・ファグの町の古代図書館で読んだ文献の内容とはかなり異なることだったのだ。

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