「ギマレイト・スター」
私はひんやりとした硬貨を穴の中に流し込み
"あなたの体液入りジュース"と
書かれたボタンを押した
出てきたジュースの中身の味は
殺されたオレンジの香りだった
そのオレンジは呪われた太陽の下
うすっぺらな
カリフォルニアの青空に
抱かれて産まれ、
彼女は恋人にキスされることを
拒んで
空き缶の中に身をひそめた
だが、
挙句の果てには
機械で出来た蚊に
体液の全てを
吸い尽くされて
ただのしなびた袋になった
オレンジの皮は
下水代わりの海に流された
圧迫と
圧縮
そして
切迫
心臟の音の高まりと共に、
私は、あなたの体液を
私の体の中に流し込んだ
あなたの体液は
意外にも軽やかに
私の胃袋の中で
ギマレイト・スターのステップを踏んだ
私はそれに気づくと
よろめきながら、
右手を挙げて答え、
あなたの缶のふたで、道路に、
ギマレイト・スターの刻印を刻んだ
そして、最後に
その透明な刻印の中央部分に、
缶に残った
あなたの体液の数滴を
垂らした
これでギマレイト・スターの刻印には
カリフォルニアの青空の呪いが
かけられた
この刻印の上を通過する
ちょうど36人目の処女の女は
カリフォルニアに
旅立たなくてはならなくなるだろう
彼女はきっと
殺されたオレンジの恋人を探し出し、
そして
その唇に噛み付くだろう
「なぜ、私の事を見殺しにしたの?」
という、
呪いの呟きと共に
私はそんな彼女のことを褒め称えたい
そしてまた、援助の手を差し伸べてやりたい
そう思ったからこそ
私は最後のオレンジ・ジュースの数滴を
大地に捧げ、
接吻の代わりにした
彼女はたった110円の硬貨で買われる
捕らわれた青空
絵本の破られたページ
そこには今も
透明な
見ることのできない
カリフォルニアの青空が
描かれている
たぶんオレンジが私の眠っているうちに
そのページを
破りとってしまったのだ
私は勝手にテレビのチャンネルを変更し、
コーヒーカップにふたをし、
それ以上-コーヒーが体の中に紛れ込むのを
防ごうとした
そうしないと
もう二度と
ギマレイト・スターのステップを
踏むことができなくなるのが
目に見えていたからだ
「オレンジよ
永遠に
あなたの歯で
私の
見えない心臟を
いたぶりつづけてください
私はただそれだけで
十分満足なんです」
そう手紙をしたためた
切手の代わりに
口付けをした
それは唯一の
私の
静かなる
復讐だった
「それでも私は
缶の中に
姿をくらました
体液でしかない
あなたのことを
今でも
十分すぎるほど
愛しています
カリフォルニアの高気圧は
その青すぎる尻を
もっと巨大に
真っ青にして
あなたの仲間の
オレンジたちのことを
つぶして殺そうと
するでしょう
私はそれでも
もはや一向に
構わないのです。」
指先から
消えていく
青空の中に
それを望んだ
いや、
さも望んでいる振りをした
空っぽの青空、ハイフン、カラマンド・・・
義務を果たせ・・