詩集:著 岩倉義人

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オーバーオール

もう僕のことは気にしなくていいよ
そういって男の子は
砂利だらけの道を歩いていった

空には恐竜みたいな真っ白い雲
それが真っ黒いくらいの青さの空に
張り付けにされていた

落ちているコカコーラの空き缶の中から
透明な液体がこぼれでて
地面を静かに汚していった

緑のオーバーオールを着た男の子は
おもちゃの鉄砲をポケットから出すと
土で汚れたコカコーラの空き缶にむけて
引き金を引いた

「僕のお父さんは
 自分のこめかみに向けて
 引き金を引いたって
 おばあちゃんが言ってたけど
 僕はそんなことはしないよ。」

お父さんはチョークみたいな真っ白な
壁のお城で暮らしていて
僕のことをたまにリークって呼ぶんだ
明るい空き缶みたいなリークって

男の子は今度は水たまりに浮かぶ
青空に向かって鉄砲を撃ったよ

ふわふわ浮かぶ白い鳥が
落っこちてきて
男の子のことをこう呼んだんだ
「お前はリーク。緑のオーバーオールを着て
 そうやって鳥を撃つ。
 そうやってお父さんを撃つ。
 自分の手のひらを撃つ」

男の子はポケットに手を突っ込んで
ピーナツのかけらを見つけだすと
それを鳥の方に投げてやったよ

それを食べて鳥は叫んだ
「お前はリーク。
 お前はあの日、そこにいて
 ただ見ていたんだ。
 お父さんが自分の頭を撃ったのを。」
「違うよレーテパーリクー僕が撃ったんじゃないよ
 お父さんが自分で撃ったんだよ」

そう答えると鳥のリーテパーリクーはどこかに飛び立っていった
下品な踊りを繰り返しながら

「僕のお父さんはこう言ったんだ。
 明け方になると俺のところには死に神がやってくる
 だからそれを防ぐために頭を撃つんだって」

「それを聞いて僕は言ったよ
 お父さんはピーナツの皮を剥いて食べるんなら
 皮だけ僕におくれよ。
 それで小さな船を造るんだから。」
お父さんはそれを聞いて
歯茎をむき出して笑ってから
僕の方にピーナツの皮をとばしたよ
それはよだれでピカピカ光っていたよ

僕はおもちゃの鉄砲を取りだして
それを撃ったんだ
そしたらお父さんは
「お前に分かるはずがない!
 俺が今ここで頭を撃たなきゃいけない理由なんて」
そう言ったんだ。

「そしたら僕はこう言ったよ。
 お父さんは行ってしまう。
 だから僕は青空の下で番をして
 お父さんが帰ってきたらそれを撃つんだ
 そしたらお父さんは
 ピーナツを僕にくれるよ。って」

お父さんは鳥を捕まえなきゃいけないから
って言って家を出ていったんだ
それから帰ってきて自分の頭を撃ったよ
それからもうピーナツは僕には必要ないって
お父さんは言った

僕はもうおなかいっぱいだから
ピーナツはお父さんが食べてねっていったら
お父さんはお城の中で笑っていたよ
ここは真っ白だから
いやな夢は見なくて済む
ここは俺のパラダイスだって

ここのピーナツは皮が剥かれているから
もう皮を剥く必要がない
だから俺はもう必要がないって

僕はもう来なくていいって言われたけど
お父さんにピーナツをあげたら
「お前のオーバーオールのポケットの中に
 鉄砲が入っているだろ。
 それを使って俺をここから助け出してくれって」
お父さんは言ったよ。
だから僕はお父さんを助けてあげたんだ
だからもうお父さんは困ったりしなくてもいい

僕は落ちているコーラの缶を拾ったよ
それを投げたら
叫んでいるお父さんの声がした
明日になったら死に神が来るから
その前に頭を撃てって

「お父さんもう大丈夫だよ
 見つからないところに
 お父さんのピーナツはもう隠したから
 狂った鳥がやってきても
 それを見つけることなんて
 できっこないんだから」

そういって男の子はお父さんを安心させて
あげたんだ

だからもう
明け方になっても
あいつには見つからないだろう

お父さんはもうここにはいないんだから

ここにはいないんだから

男の子は棒を持って地面に顔を描いたよ
そのお父さんの顔は笑っていた

たぶん今も白いお城の中で
僕のことを待っているんだ

だから僕はそこにいき
お父さんにこう言ってあげるんだ
「もうだいじょうぶだよ。お父さん
 悪い奴らはみんなおっぱらったから
 白い鳥はもう来ないよ。
 鳥はもうシベリアの北に帰っていったよ。
 だから僕とお父さんも家に帰るよ」ってね

アダム・ニル
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