コオロギとガラス
砕けてしまったガラスの破片を拾い
明け方になるのを待って
君が消えていった方へ向かって
投げ捨ててしまおうかと悩む
「きみはあのとき、きれいごとばっかり言っていたよね。」
あたりにはたくさんのガラスウールが生えていた
明け方になるとそれは消え
たっぷりと水を含んだ
ただの花びらに姿を変える
「言い放題言ってばかりだと最後には明け方を迎える。」
紙に線を引き、円を作る
その中に(真っ白)を閉じこめてしまおう
無邪気に笑いながら
君には見つけることなんてできないだろう
だってそれはこの世にないんだから
ずっと遠くでかざぐるまをまわす風を見つめた
かざぐるまに触れた瞬間に風は違うものに
変わっているんだって信じられるかい?
白い紙にまん丸な円を引きその中に白を閉じこめる
どんなミサイルだってそれを破ることは出来ないはずさ
だってそこにはなんにもないんだもの
存在しないものをぶっつぶすなんて
だれにもできないことさ
そうコードがネズミにかじり取られた
電話機を手にもち
僕はつぶやいていた
部屋の中にいたのに息は真っ白
唾を吐いてもその瞬間に空中でかたまってしまうよ
埃にまみれて死んでいたコオロギの死体
それを手にとって
破れた窓から投げ捨てた
それはきっと最後には弾丸になって
明るい明け方を貫くよ
どんなミサイルだってそれにはかないはしない
ただゆっくり飛んでいく
ちぎれた羽根だけがそれを追い抜くだろう
明け方の向こう側には砕けたガラスが横たわる
ピントのはずれたカメラを持った兵隊たちがそれをねらう
「僕は昨日も言っていたでしょ、明け方を越えるとそれは死ぬ、
誰かに見つけられた瞬間にすべてがいやになるんだ。
物事って奴はそういうもんだよ。」
そうそう、物事って奴はそういうもんだ。
空中に浮かぶちぎれた羽根ぐらい早く飛ぶものはない
僕は優しく言ったもんさ、
「明け方になるとあいつには
氷の剣が刺さっているよ」と
だからまあ見ていてほしいんだ
ただのコオロギがミサイルにかわる瞬間を
ただの砕けたガラスが氷の剣に変わる瞬間を
そんなことはありはしないってことを