詩集:著 岩倉義人

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「キフキフ」

キフキフの手はいっつもカビだらけになってるみたいで、
血がにじんでるみたいで、
その大きめの手をキフキフは
ちいさな体にぶら下げて、
いつもぷらぷら振りながら、
歩いていったんだ。

キフキフの毛は、綿毛のようで、真っ赤でふわふわしていて、
いっつも、その強情な毛を
なびかせながら、歩いていったんだよ。

その
ちいさなキフキフのちいさな赤い財布には
いっつも茶色のつぶつぶした石ころが
大事そうにころころ赤い音を立ててたんだよ。

キフキフのまっ赤なトマトみたいな香りのおばあちゃんが、
一年前に、
しなびるようにして死んじゃって、
おばあちゃんをお医者様が「どうしたんかな?」と、
胸を開けてみたときに、
血の管に、
煙水晶のように
やさしくはりついていて、
くすくす、肩をふるわしてた、小さな茶色い石さ。

おとうさん、
でっぷり太ったケツをした、
キフキフのおとうさんに、
おばあちゃんの石を入れた、
おばあちゃんの小ビンを
お医者様は、
ほいと、手渡したんだけど、

おとうさんは、
でっぷり太ったケツをした、
まっ赤な顔の
おとうさんは、
「こんなクソみたいなもんは、捨てちまえ。
こんなクソみたいなもんは。
ババアはこいつのせいで死んだんだ。」

大きな、おしりを、ふるわせながら、
キフキフのおとうさんは、
おばあちゃんの入った、
おばあちゃんの死んだ小ビンを、
腐ったザクロの香りのする、
腐ったドブ川に、
トポンと
投げ込んだんだよ。

わけわかんないほど、
キフキフは、
悲しくなって、
くらくらして、
吐き気がして、
クソおやじを、橋のガードレールから、
転げ落してやりたいって、
固く、カビだらけの手を握りしめて、
ますます血がにじむほど、固く握りしめて、
キフキフは、
そうやって、手をプルプルふるわすことしかできなかったんだよ。

おとうさんはそれを見て、
また、「ぼんやり、なにをしてやがるんだ。」
と、少し笑って、キフキフを、
そのままほっといて、
おとうさんは、
ほこりだらけの坂を、
振り返りもしてくれずに
ただ、ずんずん登っていってしまったんだ。

もう、キフキフは、
「そんな事どうでも、いいや」とキフキフは、
腐りかけのイチジクの香りのする、
おばあちゃんのやさしい香りのする、ドブ川に、
いそいで、飛び下りて、

おばあちゃんの小ビンの
おばあちゃんの小石を
キフキフはいっしょうけんめい
探したんだよ。

でも、それでも見付からずにキフキフは、
もうあきらめて、
キフキフは
「もうどうなってもいいや。
ぼくがいなくなったって、
ぼくが今すぐいなくなったって、
困るひとなんてだれもいやしないんだ。」
とキフキフは、
頭を鉛のように傾けて、
潜って行こうって、
思ったんだよ。

でも、キフキフのつま先に、
やさしくキフキフのつま先に、
そっとふれてくれるものが
あったんだ。

そのビンから出てきてくれた、
おばあちゃんの体の
おばあちゃんのいしを
キフキフは赤いちっちゃな財布にいれて、
牛乳代しか入っていない、
財布の中で
クツクツ
トマトの音を
立ててたんだよ。

そうゆう事をキフキフは
「絶対、ほかのやつなんかに、
ほかのやつなんかに、
絶対教えてやるもんかっ」て
おもって、
強くじめついた風に逆らって、

そのガビガビくっついた、
髪の毛を、
くしゃくしゃした指先で、
ちいさな唇をかみながら、
血が出るくらいかみながら、
がんばって、
なでつけようとして、
いたんだよ。

キフキフ
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