水の国の姫 SFファンタジー小説 : 著 岩倉義人

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7章 3 緑の光

「普通に下まで潜っていては時間がかかる。私が連れて行ってやろう」そうレイダルスは言うと炎の鷹の姿に変身した。それから身を屈めると自分の背中に乗るように示した。フレイシーは少し躊躇したが結局は乗った。すると彼は二、三度激しくはばたいてから地面を蹴った。そして鷹は静かに飛び立つと塔の天辺に煙突のように空いている穴の中に飛び込んで行った。塔の中はほとんど日が差し込んでこなかったので真っ暗だったけどレイダルスがほのかに光っているので辺りはほんの少し見ることができた。下りながら上の方を見てみると切り取られたように円く青空が浮んでいるのが見えた。そこに向かってレイダルスの尾っぽから出ている炎の光がふわふわと飛んでいた。
「ここを下って行くと何があるんだろう。きっと何か分らないものが待っていて、それが全てを打ち砕いてしまうんじゃないだろうか。だけども、たぶん水の姫から貰ったこの鍵があれば何とかなるはず」フレイシーはそう思えてしかたがなかった。
 ちょうど地下の部分に辿りつくまでは全く何の問題も無かった。だけどその先が大変だった。あらかじめ地下の大人たちが防御線を作っていたからだった。それは全く目に見えないものだったがフレイシーたちに激しい効果を現した。そこを通過する瞬間、心の中で激しい炎がはじけ飛んで、光のワイヤーロープに引っかかる感じがした。それは精神的な効果のものだったけどかなり苦しい罠だった。たぶん奴らはそれを見張っていて、これから攻撃を仕掛けて来る可能性は十分にあった。苦痛の光の渦の中でレイダルスは鷹の姿のままで言った。
「この先、多分奴等がやってくるだろう。これはこちらの思考を鈍らせるための罠だ。大して害はないがそれを防ぐ手段もない。それを知っていて奴等はこの種類の罠を選んだのだろう」
 塔の中は巨大な一本の空洞になっていて、それは潜れば潜るほど太くなっていった。最後には全く壁が見えなくなってしまったので闇の中を落ちていく感じがした。レイダルスは時折仕掛けられている精神の罠にも全く構わずにますますスピードを上げて行った。だがそれは突然の衝撃を受けて止まった。フレイシーはうつむいて彼にしがみ付いていたのだが、空中に放り出されてしまった。だけど地面に叩きつけられるのではなくそのまま同じ場所でぴったり浮いたままだった。
「一体何が起こったんだろう」フレイシーは体を捻って見ようとしたがうまくできなかった。ただレイダルスも近くにいて羽ばたいた姿勢のまま凍りついたように浮かんでいるのが見えただけだった。するとどこか遠い所で声がした。
「よーしうまくかかったみたいだぞ。早く始末してしまうんだ」
 声はくぐもったようなダミ声だった。それは壊れかけた合成言語作成機が作ったような音だった。それから急に辺りが明くなった。だけど眩しすぎて何も見えなかった。真っ白な光の中で漂うようにフレイシーたちの体は浮んでいた。するとまた体に新しい衝撃が加わった。痺れるような感じだった。その薄れていく意識の中でフレイシーは見た、沢山の人間たちを。彼らは皆、真っ赤なマスクをしていて顔が見えなかった。それに赤いビニールのマントで体を保護していた。有害な外気から身を守るためにそれを身に付けていたのだ。彼らは塔の内側の円周部分にぐるりといて、蜘蛛の巣にかかった獲物を処理する瞬間を今や遅しと待っていたのだった。そして誰かが合図を送ると緑色の網目状の光で出来た大きな玉が近づいてきた。それからその玉の中にレイダルスが取り込まれていくのが見えた。次は自分の番だとフレイシーは思ったのだがその前に彼女の意識はほとんど途絶えてしまった。だけどやはりまたその巨大な緑の玉は容赦せず迫ってきて、フレイシーも飲み込んでしまったのだった。
「これで作業は完了した。後は砂の姫と小さな蛇だけだな。リレーパーとかいう。あれは大したことはないだろう」夢の中でそう声がした。「リレーパーのことは放っておいて!」そうフレイシーは叫んだが声は全く出なかった。それでも叫んだあとに感じる喉の痛みだけを感じながらフレイシーは思った。ここは一体どこなのだろうと。レイダルスと彼女は閉じ込められてしまったのだった。永遠の光の中に。

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