水の国の姫 SFファンタジー小説 : 著 岩倉義人

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5章 2 フレイシーの思惑

 イルミスはそれから数日間、砂の姫から知らせが来るのをずっと待ちわびていた。またすぐにあのリレーパーがやってくるものと思っていたが、何の知らせもなかった。
 なんだか姫から水の国に行くのを頼まれたのがただの夢だったのかもとも思えてきたが実際にボロ切れに巻かれた剣はベッドの下にまだあったのだし、リレイパーの手を握った感触もまだ手のひらに残っていたのだった。
「リレーパーのやつ、元気でやってるのかな。あまり変なことに巻き込まれていなければ良いけど。でもまあとりあえず、水の国に行くことになったってことをフレイシーに教えておかないとな。一応兄弟なんだし、いきなりいなくなったらあいつだってびっくりするだろうし」
 イルミスはフレイシーの部屋の前に行き、ノックしようと手を上げた。すると上げた手がドアに触れる前に声がした。
「お兄ちゃん何の用? いちいち部屋にまで来ないでよ。後でキッチンで会うからそれで良いでしょ」
 イルミスは「ああ分かった」と口の中でもごもご言ってからその場を後にした。そう言えば姫の所に行ったとき以来、妹とろくに口も交わしていなかったのだった。なぜそうなったのだろう。もしかするとフレイシーは自分の事を避けていたのかもしれない。何かおかしいぞ。イルミスは勘を働かせた。そしてその勘が外れることはめったになかったのが不思議と言えば不思議だった。
 そんな風に思いながら、あまりおいしくない合成コーヒーをキッチンですすっているとフレイシーが部屋に入ってきた。彼女は神経質な表情をしながらすばやく部屋を横切るとイルミスの正面に座った。
「さあ、話があるのなら早く言って。私だって忙しいんだから」
「忙しいとか言って、大した用もないくせに。どうせやることといったらパルスとおっかけっこするか彼氏とデートするとかそんな程度だろ」
 言ってからイルミスはしまった! と思った。だが言い訳をする前にフレイシーの顔色はみるみる真っ赤になっていった。
「話はそれでおしまいね。じゃあ私はもう寝るから!」そう言って彼女は立ち上がった。「まあ、待ってくれよ、フレイシー。どうでも良いことを言ったのは謝るよ。一応大事なことなんだ」
「分かったから、謝らないでよ。気味が悪いから」フレイシーは今度はイルミスから顔を背けて座った。何と説明すれば良いのか難しかったがとりあえずイルミスは話し始めた。
「一月ぐらい前のことなんだけど、僕が怪我して帰ってきた時があっただろ。その時、実は砂の塔に行っていたんだ。なぜかあの時僕はあの天辺に登りたくなってしまったんだ。そうだ、思い出した。水の国の黒い使者がやってきて双眼鏡で見ていたら塔の壁にぶち当たって死んでしまったんだ。それで僕は気になって仕方がなくなってしまったんだよ。
 それで塔に登ってみると案の定、黒い使者の死体があった。そしてその脇には不思議な剣が落ちていたんだ。中が透明になっていて幻がその中に浮かんで見える剣だった。それは水の国のものらしい」そこまで言ったときフレイシーが驚いてイルミスのことをまじまじと見つめていたのだが自分の話に夢中になっていて彼はそれに気がつかなかった。
「それで、どこまで話したっけ、そう、水の国の剣だよ。あの剣は何だか本当にイカれているんだ。僕はその時その剣の中でずっと遠くに出かけて行って水の国の姫に会った。水の姫はなんだか助けを求めているみたいだった。なんだかとても綺麗な人だったんだ…」
 そこでイルミスが少しぼうっとして想像を膨らませているとフレイシーは咳払いした。
 「それで一体何なの? もしかしてそのお姫様を助けに行くことになりました。だのとほざくわけ?」
「うーん、それじゃだめかな? 僕は剣を返しに行くって砂の姫と約束してしまったんだ」
「何それ、いつ約束したって言うの?」
「ついこの間さ。その時僕は砂の塔に呼ばれて行った。そこで砂の姫と会ったんだよ。なんだか知らないけど、この国にこの剣があるのが危険らしい。でも僕は触っても大丈夫だから、僕が赤い使者の代わりに持っていくことになったんだ。彼は病気か怪我か何かで今、寝込んでいるんだってさ」
 それを聞くとフレイシーの顔は青ざめた。心の中でそれは私のせいだとつぶやいていた。
「分かったわ、イルミス、水の国でもどこへでも行けばいいわ。だけど一つだけ条件があります」
「なんだよ。条件って」
「それは、私も一緒に水の国へ行くことよ。私もそうしないといけないの、絶対に」
 イルミスは一瞬呆気に取られて何も言えなかった。
「何言ってんだよフレイシー、そこはとても危ない所なんだぞ、どうしてお前までそんな所に行かないといけないって言うんだ」
「イルミスはきっと私の頭がどうかしたと思うかもしれないけど、聞いて。
 私はホンセ・リーラーにイルミスと一緒に水の国に行くようにって言われていたの。そうすることがきっと必要になるって彼は言ってた。その理由も今は言えないって彼は言ってたの。だけど自分を信じてほしいって。だから私は彼を信じることにした。
 だけど、イルミスがこの話をするまではそんなことありっこないって心のどこかで思っていたの。でもあなたは水の国に行くつもりなんでしょ? それだったら私にだって行く権利はあるわ。もし一緒に行けないのなら私は一人で行きます」
 イルミスはあまりにびっくりしすぎて頭を打たれたようになっていたが突然叫んだ。
「そんなふうに言われたら、よし分かった一緒に行こう! とか言うと思ったのか。僕もとんだお人好しだと思われたもんだ! とりあえずしばらく考えたいから向こうに行っててくれ!」
「良いわよ! こっちに来いだの行けだの、頭にくるわ! とっとと一人で行けば良い!」
 そう言うとフレイシーは自分の座っていた椅子を蹴飛ばしてから自分の部屋に走って行った。それからすぐにバン! とドアを閉める音が響いた。
「言ったわよ、ホンセ・リーラー、これで満足?」そうフレイシーはぼそりとつぶやいた。それに答えるようにフレイシーの机の上に置かれているコンソールから水色の光があふれ出した。そこには彼からの言葉が送りつけられていた。
 フレイシーは目に涙が滲んできてその文字を読めなくなってしまった。だけど、良かったのだ。ちょうど読みたくなかったのだから、少なくともその時だけは。

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