五章
「最も醜きものは、肉の服を着る者。または、誰かの肉の服に進んでなろうとするものである。」
レザラクス教則149
約39年前に赤土の本の写本にクリタクルガにより個人的に書き加えられた部分。
ストラト・スートニックスはドアを半開きにしたまま、ノックしても彼が答えようとしないので、かまわずトワンスの部屋に入り込んだ。そして、それでもなお背中を向けたままのロフの方へ、机を避けて回り込もうとした。
部屋の中に薄暗く積まれた雑多なものを避けつつそこにたどり着くのは、非常に面倒な事に思えたが仕方がなかった。彼に直接、声をかける気もしなかったが、何かを呟こうとした瞬間、ロフは鋭く言った。「そこにあるボウルの中を見ろ。」
彼の横顔は弱い光の蛍光灯に照らされ、濁った灰色をしていた。すぐ横の机の上に薄汚れたホーロー製のボウルを紙くずの中から見つけると、スートニックスは覗き込んだ。中にはぬめりを持った血がスープのように入れられていて、そこに小さな黒い魚が腹を見せて浮いていた。
彼は瞬間的に自分がその魚になった気がした。
「一体、何なんだ。これは?」
彼の久しぶりに見る死体らしい死体だった。
「これからリルファーの身に起こることを予言してみたんだ。これは魚ではない、蛙の幼生だ。彼らは私たちと同じように生まれ変わる権利を持っている。その神から与えられた権利を無理やり捨てさせるとどうなるだろうか。また、彼らが本当はそのことを望んでいたとしたらどうだね?」
彼は小さな暖炉の中の人工の火に向かって話し続けた。
「私は進んで彼らの役に立ちたいと考えた。と、言ってもしたことはごく簡単だ。胸のある一つの腺を針で突き潰しただけなんだ。そこの腺から姿を変えるために必要な刺激物質が分泌されてくるんだが、それは私たちにとってのグメルズスと同じ役割をする。それを無くしてやったんだ。だから彼には魔法は訪れなかった。
彼は子供の体のまま大人になろうとした。つまりオタマジャクシのまま卵を孕んだんだ。ここで大変面白いことが起こった。胸腺を潰したオタマジャクシは一匹だけだったにもかかわらず子供を孕んだ。処女懐胎だよ。こいつは仕組まれた小さな奇跡さ。君にだって同じ事を試せる。しかし、かわいそうなことに、卵は生み出されることも無く彼の腹の中で無理やり孵ろうとした。つまり彼の小さな小さな処女膜は内側から自分の子供によって食い破られたんだ。ああ、そして、死んだ母親の処女膜を産着にして生まれたその子はどうなったと思う?」彼は目をしょぼつかせて、小鳥に話すようにささやいて見せた。
「その時の圧力に奇形の子供は耐えかねて、頭を弾けさせて死んだんだ。小さな血の連発花火さ。」